翻訳テクニック集 目次

驚かされた

新聞を読んでいてよく目にする表現に「驚かされた」があります。

(文1) 色鮮やかなチョウが姿を現したことに驚かされた。

「驚かされた」なんて、何だか被害を受けたみたいです。最後の文節「驚かされた」の構造は以下のとおりです。 驚かす+れる+た 他動詞「驚かす」に受け身の助動詞「れる」と過去の助動詞「た」が付いています。この間に入っている受け身の助動詞「れる」が問題です。わざわざ他者が自分に何かしたという言い方をしなくても、自分の視点で自動詞「驚く」を使えばシンプルで力強い表現になります。

(文2) 色鮮やかなチョウが姿を現したことに驚いた。

改善されました。でもまだ気になります。「……ことに驚いた」という表現です。人間は普通、「こと」に驚くのではなく、その現象を目の当たりにして驚くはずです。驚くときに人がどのように感じるかを思い描いてみてください。出来事と感情の推移を追えば、 色鮮やかなチョウが姿を現す → その姿を私が見る → 私が驚く と流れることが分かります。この流れをそのまま文に書けば、 (文3) 色鮮やかなチョウが姿を現して驚いた。 と素直で力強い表現になります。最初の文 (文1) 色鮮やかなチョウが姿を現したことに驚かされた。 と比べてみてください。文3に書き換えることで、ずっと生き生きした表現になることが分かります。

元の「驚かされた」は外国語 (特に欧米諸言語) からの逐語訳に影響された表現でしょうか。英語ではI am surprisedと受け身で表現します。これを受け身のまま逐語訳すれば「私は驚かされた」になります。

surpriseに限らず、英語では、よく何者かを想定して、その他者から行為を及ぼされる形で感情を表現します。ここでいう他者は人とは限らず、無生物のこともあります。

I am amused
I am interested
I am flattered
I am disappointed
I am terrified

ことごとく受け身の形をとっています。それが英語の発想なのですが、その図式をそのまま日本語に持ち込んでも日本語らしい表現にはなりません。

おもしろがらせられる
興味を引かれる
うれしくさせられる
がっかりさせられる
怖がらせられる

何だかぼやけた表現です。感情がまっすぐ伝わってきません。受け身をやめて素直に書けば、感情が手に取るように伝わってきます。

おもしろい
興味がある、気になる
うれしい
がっかりする
怖い

無駄な言葉を削ると表現が力強くなることが、この例からも分かります。

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