to不定詞の翻訳

キーポイント
  • something to be doneは「doするsomething」と翻訳する
  • to不定詞が目的を表すことは少ない。to不定詞は、toの位置で2文に切って訳し下ろす
  • 文頭のto不定詞は「……するには」と翻訳する

この章の目次

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to不定詞の働き

to不定詞にはいくつかの働きがありますが、技術文書では特に以下の用法が多く見られます。

  1. 名詞的な働き

    例: Another way is to select Help from the menu bar.
    「another way」が「to select Help from the menu bar」であると述べています。

  2. 形容詞的な働き (名詞を修飾する)

    例: This chapter introduces functions to determine whether Python scripts are enabled.
    「to determine whether Python scripts are enabled」が「functions」を修飾しています。

  3. 副詞的な働き (目的を表す)

    例: This parameter indicates values used to find the host.
    「find the host」のためにuseされると述べています。

  4. 副詞的な働き (結果を表す)

    例: Click OK to close the Internet Connection dialog box.
    「click OK」の結果として「close the Internet Connection dialog box」が実行されます。

上記の例文を自力で翻訳してみてください。翻訳できたら、下の訳例と比較してみましょう。

訳例 (クリックすると訳例が表示されます)

Another way is to select Help from the menu bar.
別の方法は、メニュー バーから [Help] を選択することです。
→ 他に、メニュー バーから [Help] を選択する方法もあります。

This chapter introduces functions to determine whether Python scripts are enabled.
この章では、Pythonスクリプトが有効かどうかを調べる機能を導入します。
→ この章では、Pythonスクリプトが有効かどうかを調べる機能について説明します。

This parameter indicates values used to find the host.
このパラメータは、ホストを探すために使用される値を示します。
→ このパラメータは、ホストを検出するために使用される値を示します。
→ このパラメータは、ホストを検出するために使用する値を示します。
注: 最後の書き換えについて詳しくは「受動態の翻訳」を参照してください。

Click OK to close the Internet Connection dialog box.
この文については、本文の中で解説しています。

名詞的なto不定詞は翻訳しやすいので、ここでは説明しません。以下の節では、形容詞的なto不定詞と副詞的なto不定詞の翻訳方法について説明します。

名詞を修飾するto不定詞

to不定詞の前にある名詞を修飾する例をいくつか示します。それぞれ例文を示しているので、まず自力で翻訳した後に、訳例と照らし合わせて確認してください。

This icon provides a quick way to launch the editor.

「to launch the editor」が「a quick way」を修飾しています。

訳例 (クリックすると訳例が表示されます)

This icon provides a quick way to launch the editor.
このアイコンは、エディタを起動するための高速な方法を提供します。

注: さらに訳文をブラッシュアップすることもできますが、ここでは、to不定詞の基本的な翻訳方法を明確にするために、逐語訳を示しています。

The ostream class has methods to write data in various formats.

「to write data in various formats」が「methods」を修飾しています。

訳例 (クリックすると訳例が表示されます)

The ostream class has methods to write data in various formats.
ostreamクラスは、各種の形式でデータを書き込むメソッドを持ちます。
→ ostreamクラスには、各種の形式でデータを書き込むメソッドがあります。

名詞を修飾するto不定詞が受動態 (to be done) をとる場合もあります。

The first parameter specifies the string to be modified.

この文では「to be modified」が「the string」を修飾していますが、以下の訳文は誤りです。

第1パラメータは、変更される文字列を指定します。

この訳文では「the string to be modified」をそのまま「変更される文字列」と翻訳していますが、この受動態 (to be modified) はstringの視点に立った記述です。つまり、stringから見ればmodifyされるわけです (the string is modified)。しかし、この文はthe first parameterについて語っており、stringについて語っているわけではありませんから、stringの視点で翻訳するわけにはいきません。この点に注意すると、以下のように正しく翻訳することができます。

第1パラメータは、変更する文字列を指定します。

以下の例では、「to be ignored」が「lines」を修飾しています。自力で翻訳してみてください。

In the Skipped Lines field, enter the number of lines to be ignored.
訳例 (クリックすると訳例が表示されます)

In the Skipped Lines field, enter the number of lines to be ignored.
[Skipped Lines] フィールドに、無視する行の数を入力します。

キーポイント

something to be doneは「doするsomething」と翻訳する
例: lines to be ignored → 無視する行
(×) 無視される行

結果を表すto不定詞の訳し方

頻出するto不定詞の用法として、以下の用法を紹介しました。

  1. 名詞的な働き
  2. 形容詞的な働き (名詞を修飾する)
  3. 副詞的な働き (目的を表す)
  4. 副詞的な働き (結果を表す)

この節では、これらのうち、副詞的な働きをし、目的や結果を表すto不定詞の翻訳方法について説明します。

副詞的なto不定詞の用法のうち、技術文書で特に頻繁に現れる用法が結果用法です。日本の中学校・高校では、to不定詞が目的を表すとばかり教えて、to不定詞を「……のために」と翻訳させています。しかし、実際にto不定詞が目的を表す場合はさほど多くありません。やや過激な言い方をすれば、副詞用法のto不定詞のうち9割は結果を表すと考えてよいくらいです。

結果を表すto不定詞は以下のように翻訳します。

キーポイント
  1. toの位置で2文に切り、
  2. 英語の語順どおりに翻訳する (訳し下ろす)。

いくつか例を示します。冒頭の例文 Click OK to close the Internet Connection dialog box. は、「click OK」の結果として「close the Internet Connection dialog box」となると述べています。翻訳するには、まずto不定詞の位置で文を切り、2つの要素に分解します (命令文の翻訳については「命令文の翻訳」を参照してください)。

Click OK / close the Internet Connection dialog box

次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。

[OK] をクリックします / [Internet Connection] ダイアログ ボックスを閉じます

最後に、それぞれの訳文を「……して」で結合します。

[OK] をクリックして [Internet Connection] ダイアログ ボックスを閉じます。

to不定詞を見つけたら、上記のように訳し下ろせないか (英語の語順どおりに翻訳できないか) 考えるクセをつけてください。

英語の語順に従って前から後ろに翻訳すると、英文を小さく分割して翻訳することができ、翻訳が楽になると同時に、ミスも減らせます。to不定詞はもちろん、to不定詞以外でも、できるだけ訳し下ろすように心がけてください。

例をもうひとつ

以下の英文を翻訳しましょう。

Press the Esc key to stop downloading images in the Web page.

最初のステップとして、to不定詞の位置で文を切ります。

Press the Esc key / stop downloading images in the Web page.

次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。

Escキーを押します / Webページにある画像をダウンロードすることを中止します

最後に、それぞれの訳文を「……して」で結合します。

Escキーを押してWebページにある画像をダウンロードすることを中止します。

以上でto不定詞が正確に翻訳でき、逐語訳が完成しました。 日本語としてぎこちない感がありますが、英文の意味は正確に伝わります。 技術文書では、日本語として滑らかな誤訳より、ぎこちなくても正確な訳文を心がけてください。 ぎこちない箇所を修正するのは、逐語訳が完成した後です。

上記の訳文のうち、ぎこちない箇所を修正してみましょう。 上記の訳文は以下のように書き換えることができます。

  1. 「……して」でつないだ後半の文が長いので、テン (、) で区切ります。
    Escキーを押して、Webページにある画像をダウンロードすることを中止します。
  2. 「……すること」を短く簡潔に書き換えます。
    Escキーを押して、Webページにある画像のダウンロードを中止します。

以上で簡潔な訳文が完成しました。

受動態とto不定詞の複合

to不定詞はさまざまな構文で使用されます。ここでは、受動態とto不定詞が組み合わせて使用されている英文の訳し方について説明します。

例として、以下の文を翻訳してみます。

The open() function is called to open the Calculator window.

最初のステップとして、to不定詞の位置で文を切ります。

The open() function is called / open the Calculator window.

次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。

open() 関数が呼び出されます / [Calculator] ウィンドウを開きます

最後にそれぞれの訳文を「……して」で結合します。

open() 関数が呼び出され、[Calculator] ウィンドウを開きます。

ただし、 技術文書では「……されて……されます」という表現はほとんど使用されないため、 ここでも「呼び出されて」ではなく「呼び出され」と翻訳しました。

open() 関数が呼び出された結果として [Calculator] ウィンドウを開くのであれば、結果として [Calculator] ウィンドウが開くと言い換えることもできます。

open() 関数が呼び出され、[Calculator] ウィンドウが開きます。

助動詞とto不定詞の複合

to不定詞は、助動詞と組み合わせて使用される場合もあります。例として、以下の文を翻訳してみます。

You can use any browser to see the help files.

最初のステップとして、to不定詞の位置で文を切ります。

You can use any browser / see the help files.

次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します (youの訳し方については「youの翻訳」を参照してください)。ここで注意しなければならないことは、助動詞のニュアンスが文全体に及んでいることです。つまり、 任意のブラウザを使用することができます / ヘルプ ファイルを表示させます ではなく、 任意のブラウザを使用することができます / ヘルプ ファイルを表示させることができます と解釈します。ただし、日本語では「……できて……できる」ではなく、文末に1回「……できる」と書くだけで十分ですから、最終的な訳文は以下のようになります。

任意のブラウザを使用してヘルプ ファイルを表示させることができます。

canに対応する訳語が文末に1回現れることに注意してください。

これまで見てきたように、to不定詞は2つの文をつなぐ働きがあるので、to不定詞がある文は長くなりがちです。長い文を翻訳しているときには助動詞の訳語を忘れがちなので、特に注意してください。

助動詞、受動態、to不定詞の複合

to不定詞に助動詞と受動態が組み合わされた場合も同様に翻訳します。例として、以下の文を翻訳してみます。例として、以下の文を翻訳してみます。

The open() function can be called to open the Calculator window.

最初のステップとして、to不定詞の位置で文を切ります。

The open() function can be called / open the Calculator window.

次に、前半と後半をそれぞれ日本語に翻訳します。

open() 関数が呼び出されることができます / [Calculator] ウィンドウを開くことができます

最後にそれぞれの訳文を「……して」で結合します。canの訳語に注意してください。

open() 関数が呼び出され、[Calculator] ウィンドウを開くことができます。

この訳文に受動態の翻訳技術を応用すると、以下の訳文になります。

open() 関数を呼び出し、[Calculator] ウィンドウを開くことができます。

ここで示した例文は、前記の例にcanを加えた文です。先ほどの翻訳手順と照らし合わせてください。

結果を表さないto不定詞

これまでは、結果を表すto不定詞について説明してきました。では、結果を表さないto不定詞にはどのようなものがあるでしょうか。

まず、to不定詞が目的語になっている場合に「toの位置で切って訳し下ろす」ことはありません。このto不定詞は名詞的な用法です。以下に例を示します。

need
You need to call the fopen() function before reading the input file.
prefer
If you prefer not to use it, you can switch it off.
want
You may want to represent zero as a bar (-).

同様に、to不定詞が補語になっている場合も「toの位置で切って訳し下ろす」ことはありません。以下に例を示します。

allow
These functions allow you to convert data.
assert
A character string can be asserted to be an array of characters.
assume
If y is not specified, it is assumed to be the same as x.
consider
For example, the time 10:23 can be considered to be two 2-digit strings separated by a colon.
help
The installation wizard helps you to install and set up the product.
tell
This parameter tells the search utility to display unmatched lines.
want
You might want this value to be encoded as 'X' for executables and 'N' for non-executables.

上記のほかに、useと併用されるto不定詞は目的を表す傾向があります。

This address is used to send e-mails.
このアドレスは電子メールを送信するために使用されます。
→このアドレスは電子メールの送信に使用されます。

しかし、to不定詞が結果を表すか目的を表すかを画一的に判断する方法はなく、文の意味を考える必要があります。

翻訳実務という面から見ると、to不定詞が結果を表すか目的を表すかを考えるのではなく、いかに訳し下ろすか (英語の語順どおりに翻訳するか) を考えるべきです。 翻訳するときに前に行ったり後ろに行ったりしていては、誤訳や訳漏れ (訳し忘れ) が発生しやすくなります。 また、長い文より短い文の方が翻訳しやすく、ミスも犯しにくくなります。 この観点からも、to不定詞の位置で文を切って単純化することは非常に重要です。

上記の観点から、この講座では、to不定詞を以下のように翻訳することをお勧めします。*

  1. toの位置で文を切り、訳し下ろしてみる。
  2. それで不自然な日本語になる場合は「目的を表す」と考えて訳し上げる。

このように翻訳していれば自然にミスが減り、訳文の品質が安定し、早く翻訳できるようになります。

* この方法は、「技術翻訳のテクニック」(富井篤著、丸善) に「荒療治」として紹介されている方法です。

文頭のto不定詞

文頭にto不定詞を置いて目的を提示する場合があります。

To convert a string to an integer value, use the strtol() function.

この形式のto不定詞を見つけた場合は、「……するには」と翻訳します。「……するために」とは翻訳しません。

(×) 文字列を整数値に変換するために、strtol() 関数を使用します。
(○) 文字列を整数値に変換するには、strtol() 関数を使用します。

ただし、手順書きの一項目として出てきた場合は「……するために」と翻訳する方が適切な場合もあります。文脈を考慮する必要があります。

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