翻訳テクニック集 目次

must

技術英語では、義務を表す場合にいくつかの助動詞が使われます。その中の1つにmustがあります。mustは強い義務を表す助動詞であり、「技術系英文ライティング教本」(中山裕木子 著,日本工業英語協会) p.149では以下のように解説されています。

「そうすることが適切あるいは当然なのでそうするべき」といった、必要性や必然性に基づく義務。

このmustを日本語に翻訳するとき、多くの場合は「……しなければならない」や「……する必要がある」などと翻訳できます。

例:

The file name must be specified.

ファイル名を指定する必要がある。

しかし、mustを常に「……する必要がある」などと強く訳出すべきかというと、そうとも限りません。

例えばマニュアルの説明文で、ユーザに絶対にしてほしいことを説明するときには「……する必要があります」が適切です。

ファイル名を指定する必要があります。

しかし、エラー メッセージとして画面に表示された場合はどうでしょうか。

エラー メッセージの役割は、入力 (各種操作も含めて広い意味での入力) や状態が不適切であることをユーザに通知し、処置を求めることです。その役割を考え合わせると「……する必要がある」という記述は客観的すぎます。これでは正常な動作のための要件を述べているに過ぎず、ユーザに何の処置も求めていません。ユーザに処置を求めるように書き換える必要があります。

The file name must be specified.

ファイル名を指定してください。

日本語訳を見る限り、命令文の翻訳と区別できません。

Specify the file name.

ファイル名を指定してください。

上記のようにmustを「……ください」と翻訳すると、mustが持つ強い義務のニュアンスが弱まるように感じられるかもしれませんが、エラー メッセージの目的を踏まえれば、この訳でよいのです。いいえ、むしろこの訳がよいのです。決して誤訳でも、mustの訳抜けでもありません。

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