翻訳していた本のコラムに、こんなタイトルが付いていました。
MEMSはMicro Electro Mechanical Systemsの略で、メムスと読みます。一言でいえば極小の機械のことです。その本では、微小なセンサーに通信機能を持たせて人体に植え込み、そのセンサーからの情報を体外の機械が受信して血糖値のコントロールなどに活用する、という話を紹介していました。その話のタイトルに出てきたのが、冒頭のフレーズです。
英語ではこの「MEMS the word」というフレーズが人気のようで、検索するとあちこちのWebサイトで使われています。中にはMEMS The Wordという名称のニュースレターまであります。(私が翻訳したのは、そのニュースレターとまったく別の本です。)
このフレーズ、このままではまったく理解できません。MEMSとwordに直接の接点がありませんし、文法を手がかりに解釈するにも無理があります。
このフレーズは「Mum's the word」にかけたシャレです。手元のリーダーズ英和辞典を引くと、以下のように説明されています。
冒頭のフレーズを思いついた人のしたり顔が目に浮かびます。
気が利いたフレーズですが、このフレーズを日本語に翻訳するとしたら、どう翻訳しましょうか。
シャレというのは大変に翻訳しにくいものです。翻訳では意味を伝えることが最優先です。意味が伝わらなければ翻訳の目的を果たしません。その上で無理にシャレにしようとすると、こじつけ感の強いダジャレになってしまって、かえって興ざめします。シャレを翻訳しようとすると、どうしてもシャレの要素をあきらめざるを得ないことが多いです。
だからといってシャレの要素を切り捨てるのはもったいない。私はこんなふうに翻訳しました。
MEMS the word
MEMSのナイショ話
MEMSという最新技術について、つい人に話したくなるような知識を紹介していることと、ベースになったフレーズ (Mum's the word) の「秘密だよ」「内緒だよ」という意味を重ね合わせました。ちょうどMEMSに通信機能を組み込むという文脈であり、小さな機械が人知れずひそひそと話をするイメージも重ねてあります。
表記については「ナイショ話」とカタカナで書いて、ちょっと気を利かせた表現だよ、と主張したいところです。 MEMSの内緒話 や MEMSのないしょ話 では雰囲気が出ません。カタカナが一番です。