読者を甘やかすこと

18 4月

Yoshimiです。翻訳のかたわら、フードバンクでボランティアをしています。

現在、フードバンクでは会報を制作しています。その中で前年度の取り扱い実績を報告する予定です。

報告するのはあくまで概要です。会報の読者は、寄付してくださった方など、フードバンクの支援者がほとんどです。報告は、一般の読者が関心を示しそうな内容に絞る必要があります。

当然、食品の取扱量はグラフで提示します。表に数値を並べることはしません。食品170tと言われてイメージがわく読者はいないはずです。実績報告の制作担当者には、そんな無意味な数字の羅列は絶対にしないように、と伝えました。

表に数値を並べるほうがグラフを作るより楽です。表の場合は数値を並べればそれで終わりですが、グラフには円グラフや柱状グラフなど、さまざまな書き方があります。グラフを作る前に、何を提示したいか明確にしなければなりません。

で、グラフ制作担当者が音を上げました。分かりやすいグラフを作れないので表にして数値を並べたいと言い出しました。

絶対にダメ、と答えました。

食品が何tと言われてすぐにイメージがわくなら数値を掲載する意味があります。しかし、そんな読者はいないでしょうし、読者の関心は数値にないはずです。

読者に何を伝えたいか。

基本の出発点を間違えると、とんでもない方向に行ってしまいます。

せっかく作って配布するのですから、読んでもらえるものでなければなりません。ちらっと見てすぐゴミになってしまうなら、NPOの生存報告にしかなりません。そんな生存報告を受け取った人は、封筒を捨てるときに宛名部分を裁断するという手間をかけなければなりません。それに会報は寄付金や助成金で作るのです。資金と資源を無駄使いした上に支援者も喜ばないなら、最初から配布しない方がましです。

私は、制作者が「面倒だ」と言ってはいけないと考えています。

安易に表に数値を並べて済ませるのは制作者の都合です。制作者の都合に合わせて制作されたものを読者が理解するのは、制作以上にずっと面倒です。

何かを書いて伝える行為は、読者の面倒くささを肩代わりしないと成立しません。翻訳でも同じこと。面倒だからと辞書を引くのを怠ったり、略語を定義なしで使ったりしてはなりません。過保護なまでに読者を甘やかして甘やかして、それでようやく普通の水準の文書になります。

読者の都合を優先させるか、自分の都合を優先させるか。プロとそれ以外の人の違いは、案外単純でいて、奥が深いのです。


有限会社トランスフロンティア
名古屋で通学制の翻訳講座を開いています。詳しくはスクール案内へ。
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