insightは「洞察」?

19 4月

読者の都合より制作側の都合を優先させてはならないという話をしました。前回取り上げたのは広報紙の制作でしたが、翻訳でも同様のことが言えます。

特に、他の言語から日本語に翻訳する場合に安易にカタカナに置き換えると、意味不明な訳文になってしまいます。

例えば最近、ビッグデータを分析してinsightを得る、という説明をよく見ますが、このinsightは日本語に翻訳しにくく、「洞察」などという訳語が当てられていることもあります。

しかし、洞察とは妙な訳語です。インターネット上の国語辞典「デジタル大辞泉」によれば、洞察とは「物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。見通すこと」であり、人間の心で行うニュアンスが強い行為です。洞察はデータを統計的に解析して得るものではありません。その証拠に、論文で「……を洞察した」「……の洞察を得た」とは書かないものです。データを解析して「知見を得る」なら、よく使われる表現であり、日本語として定着しています。

「洞察」でダメならと、カタカナに置き換えて「インサイト」としている例も見られます。

私が翻訳する場合は「洞察」や「インサイト」といった安直な置き換えを避けています。insightは学術用語のような明確な定義のある言葉ではありません。そのような言葉を翻訳するときには、必ずしも原文の名詞が訳文でも名詞になっていなければならないわけではないので、動詞として訳出して「見通す」「見抜く」とすることも多いです。

しかし、このような翻訳者はごく少数のようです。日本語になじむ訳を定着させたいと願っても、多勢に無勢、徒手空拳。その間に妙な訳語が日本にあふれて、デファクト スタンダードとして定着してしまいます。悲しいことです。


有限会社トランスフロンティア
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