先入観を取り払う (1)

13 3月

以前、翻訳の大敵は先入観 (思い込み) だという話をしました。

人間は気をつけていても先入観にとらわれているものです。厄介なことに、自分ではなかなかそのことに気づきません。

少し文章を読みかけただけですぐに「この文章はこういうことを言っているんだ」と早合点する人がいます。文章の意味を決めつけてしまうと、文章をその決めつけの枠に当てはめながら読み進めることになり、結果として元の意味とまるで異なる解釈に行き着いてしまいます。

そこまでひどくなくても、文章を読むことに慣れていないと読解が浅くなりがちです。「木を見て森を見ず」の状態に陥り、見えなくなった森を、今見ている木から (無意識のうちに) 想像して埋め合わせるようになります。

母語の文を読む場合 (例えば日本語で育った人が日本語の文を読む場合) でも決めつけながら読んでいく人が多いのですから、原文が母語でない場合 (例えば日本語で育った人がイタリア語の文を読む場合) はなおさらです。

翻訳のときに先入観にとらわれると、誤訳を生んでしまいます。大変危険なことに、本人には原文の意味を誤って決めつけた自覚がありません。私は翻訳の仕事を始めて20年が過ぎましたが、自覚がないまま原文を誤読しているのではないかと、今でもびくびくしています。

翻訳の初心者だけでなく、翻訳にちょっと慣れてきた人も要注意です。この段階の翻訳者は、いろいろと訳文を工夫してみたくなる「お年頃」。訳文を工夫することは悪いことではありませんが、生兵法は大ケガのもと。本人は「翻訳しにくい文章を見事にさばいた」と大満足ですが、とんでもない思い違いをしていることに気づきません。

文章を読みかけた時点で意味を決めつけてしまう癖は、学習や訓練によって直すことができます。もちろん、人間である以上、読解の誤りを完全になくすことはできませんが、少なく抑えることは可能です。

(次回に続く)


有限会社トランスフロンティア
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