たいやき式翻訳法

15 4月

書籍は、よほど薄いものでない限り、複数の章や節から構成されます。その1冊の本を翻訳するときに、どのような順序で翻訳していくか。人それぞれいろいろな進め方があるでしょう。私にも決まった順序があります。独特な翻訳順序かもしれませんが、私の流儀としていつの間にか確立しました。

翻訳にあたって頭から第1章、第2章……と翻訳していくことはありません。最初に翻訳するのは各論の部分。つまり第3章や第4章など、いきなり真ん中あたりに着手します。各論の翻訳がすべて終わってから、最後に概論 (第1章など) を翻訳します。用語集 (glossary) がある場合はその後に翻訳します。本の中ほどから翻訳を開始して冒頭に戻るという順序は、マニュアルを翻訳する場合でも同じです。

真ん中から翻訳を開始するのには、れっきとした理由があります。

技術系の本は (マニュアルも) たいてい第1章が概論になっています。その概論や用語集には抽象的な記述が多く、訳語の選択や絞り込みがしにくい傾向があります。日本語に翻訳しにくい単語やまだ定訳がない語句は、具体的で詳細な説明がないと訳語を決められません。そんな状態で第1章を翻訳しようとしても、訳語保留の箇所が増えるばかりで翻訳がはかどりません。

もちろん、第1章から翻訳していくこともできます。新たに訳語をあてるべき語句が出てきた時点で、その後の章を参照して内容を理解して訳語を考え出せばいいのです。

しかし、後の章を読むだけ読んで何もせずに元の章に戻ると、読むだけで時間を使うことになります。どうせ読むなら翻訳してしまえば効率的です。

こんな話をすると、全体に目を通してから翻訳すればよい、という声が聞こえてきそうです。確かにそうなのですが、そこまで時間に余裕がない仕事が多いのです。

時間に追われる中で翻訳品質を確保するために、まず真ん中の各論に切り込み、内容を理解しながら翻訳を進め、最後に概論を翻訳し、一通りの翻訳が終わったところで全体を俯瞰 (ふかんしながら訳文を調整する、というのが私のいつもの流れです。「やっぱり真ん中から翻訳するよね」と意見が一致する人に会ったことはありませんが、私にはこの方法が合っているようです。

たいやきも翻訳も、まず2つに割ってあんこたっぷりの真ん中から食べるのがいい。

とは言ってみたものの、私はたいやきを食べるときに頭からかぶりつくタイプです。実際に2つに割って真ん中から食べることはありませんので、念のため。


有限会社トランスフロンティア
名古屋で通学制の翻訳講座を開いています。詳しくはスクール案内へ。
理工系専門書、IT・電気工学・その他分野の英→日翻訳を承っております。2001年創業以来1000件以上の翻訳実績。お見積もり・お問い合わせはこちらからどうぞ。