読書ノート: 物語 フィンランドの歴史

25 1月

オーロラ、サンタクロース、トナカイ、ムーミン、高福祉、教育先進国。フィンランドと聞いて日本人が連想するのはこんなところだろうか。フィンランドは、スウェーデン・ノルウェーと並ぶ北欧3カ国の1つとして日本でもよく知られている。

北欧は白夜でも有名だ。白夜という言葉にひかれて「白夜の国ぐに」(武田龍夫 著、中公新書) という本を読んだことがある。高校生のころだったと思う。出会ったのは図書室。私のことだから、次に読む本を探して書架の間をぶらぶら歩いているときに、ふと背表紙が目に留まって手に取ったに違いない。無邪気にも、北欧での暮らしや自然が描かれていると期待していた。

浮ついた期待はすぐに打ち砕かれた。語られていたのは国際政治。超大国アメリカとソ連がにらみ合う国際社会で、ギリギリまで追い詰められつつも国を守り抜いた北欧諸国の苦しい歴史だった。国際社会とはこんなに厳しいものなのか。お気楽な高校生が社会の荒波に触れたのはこのときだ。

その北欧の歴史にまた触れることになった。「物語 フィンランドの歴史」。今度はフィンランドに的を絞った本である。

フィンランドは北欧3カ国の中で最も東に位置する。大国ロシアにべったりと接し、国境線は1300kmにも及ぶ。人口や経済規模の差も歴然としている。そんな地理的条件もあり、フィンランドは常にロシアの顔色を伺い、他国との距離を測りながらの綱渡りを強いられてきた。戦時ともなればなおさらである。

第二次世界大戦中、フィンランドはソ連から領土交換を突きつけられた。交渉にあたって、フィンランドは国際社会の趨勢 (すうせいを読み誤る。ソ連側の要求を拒絶したことから (わずかな譲歩を提示しただけだ)、ソ連軍に侵攻される。このときは何とかソ連軍を退けるが、代償は大きかった。フィンランドはソ連に国土の1/10を割譲し、賠償金まで負わされる

しかし戦争の波は引かない。ドイツ軍がノルウェーとデンマークを占領し、さらにスウェーデンに迫る。ソ連がバルト三国を併合した。フィンランドは完全に包囲された。国際連盟もフィンランド救援まで手が回らない。

ドイツに組み敷かれるか、ソ連に飲み込まれるか。

国際的に中立な道を進みたいが、理想論が通る情勢ではない。フィンランドはドイツと手を結ぶ道を選択する。あのナチスドイツだ。連合国、特にアメリカやイギリスを敵に回すことになるだろう。しかし、ほかに選択肢があるだろうか。

小国は、常に大国のパワーゲームに翻弄 (ほんろうされる運命にある。理不尽だが、それが国際社会というもののようだ。その波にもまれてナショナリズムも醸成され、フィンランドに大きな傷を残す。深手を負いつつも何とか大戦をやり過ごしたフィンランドは、戦後「大国間の利害紛争の外に留ま」るという願いを実現し、新たな道を切り開く。福祉・教育・男女共同参画で世界の先端を行く今のフィンランドはこうして生まれた。

ここで地球儀を1/4回転させよう。ユーラシア大陸を越えた先に日本がある。その日本の状況はどうだろうか。確かに経済大国の地位を占めてはいる。人口も1億人を超え、教育水準も高い。しかし、大国か小国かの分類はあくまで相対的なものだ。中国・アメリカ・ロシアという大国に囲まれて微妙な (かじ取りを強いられることはフィンランドと変わらない。

現代日本に生きる私たちは、どのような道を進むべきだろうか。私たちは、一人一人誠実に日本の未来を描いているだろうか。現状を冷静に分析し、理不尽な境遇にも耐え、もつれた糸を丁寧にほぐす覚悟があるだろうか。子どもたちに、孫に、さらにその先の人たちにどのような社会を残したいか。身近なことも大事だが、大局的な視野も持たなければならない。国際情勢を無視して内国政策を立てることなどできない時代だ。歴史がその視野を照らしてくれる。

【書誌情報】
書名: 物語 フィンランドの歴史 ― 北欧先進国「バルト海の乙女」の800年
著者: 石野 裕子
出版元: 中央公論新社 (中公新書)
出版年月: 2017年10月


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